読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

まどゐ。

~ おもゐを嗣ぎ、おもゐを纏ひ、おもゐを遣る ~ 

【改訳 怪談 乳房榎】 第九講

 

【今日のこよみ】 旧暦2014年 2月 6日 先勝  四緑木星

         丙子 日/戊辰 月/甲午 年 月相 4.8

         啓蟄 末候 蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)      

 

【今日の気象】 天気 晴れ 気温 1.9℃ 湿度 59% (大阪 6:00時点)

 

 

 

そばで浪江が酒をすすめますから、正助は段々酔いが回って少し呂律があやしくなり変に調子を張って参りまして、

 
 
「マァ浪江様、安心なせぇ。ワシ今の事なら引き受けるよ。だがワシも練馬の赤塚の生まれだが親類身寄りはみんな死んでしまって、今じゃぁ木から落ちた犬、なに犬じゃなかった、、、そうそう猿だが、その仏さまが今年の秋の年回にちょうど当たるから、どうか檀那寺へ付け届けして法事をしょうと思ったところだ。
 
ありがてぇ、おめぇ様がくれたこの金で法事して村の人を呼んで御馳走してもまだ余る。から、残りでまだ反物ぐらいは着られますよ。
 
ありがてぇ、ワシまだ家の先生様が秋元様の御藩中で二百四十石とった眞與島伊惣次(まよじまいそうじ)といった時から奉公して、今年でちょうど九年勤めるだ。先生は、風流が好きで屋敷を出てから柳島へ引っ込み、絵ぇ描いてまするが、あれでもまだ年は三十七歳だよ。
 
アノンエ、人はねえ、誠に優しげな先生で、われは身寄りも何にもねぇが、縁あって、おれの様なもんでも主人家来になったのは、深けぇ縁だ。おれの所に長く九年もおったから生涯家へ飼い殺しにしてやるって、てめぇが患ったらおれが看病して死に水は取ってやると、なんと浪江様ありがてぇでないか。
 
それに目のよる所へは玉で、あの奥様がエエお人だ。年は先生からみるとよっぽど若けぇが、気の付くの何のって。
 
あんたも弟子になったが、毎度先生が、浪江さんぐらいの気の付く弟子はねぇ、あれは弟子に取り当たったって、あんたを誉めていますだが、浪江様、本当に伯父甥となれぞあんたに悪いことがあればワシ小言を言うから、その時は腹ァ立ってなしだョ」
 
 
 
「それは大丈夫だ。何で腹を立つものかョ。それでは、いよいよ頼みを聞いてくれるか」
 
 
と、浪江は前にありました猪口を盃洗でゆすぎまして、
 
 
「さぁこれが改めて伯父甥の固めだ」
 
 
と、正助へ差しますから、
 
 
「ありがてぇだ。いただくべぇ。チットまたこぼれる様に注(つ)いではいけねぇ」
 
 
と、正助は快く飲み干しますから、浪江は得たりと思いまして、
 
 
「イヤ、早速の承知でかたじけない。コウ親類になれば何もかも互いに物を隠しだてを致してはいけんから、正助どん、私(わし)は腹蔵なく何もかも言うよ」
 
 
「アア、それが良い。言いっしゃい何でも。言いっしゃいおれが聞くョ」
 
 
「イヤなんでもないが、、、、、、面目ない。実はナ、先生のお留守の内にな、面目ないが、柳島のお宅の奥様に手前くっついたテ」
 
 
「エ、うちの奥様にくっついたって。何がくっついたョ」
 
 
「分からん奴じゃ。実は、面目ないが、先生の目を忍んで奥様おきせ殿に密通致したョ」
 
 
「エ、密通とは、どうしたダ」
 
 
「これ、分からん奴じゃ、、、、、、間男をしたのじゃ」
 
 
 
「エエエ、うちの奥様とあんたと間男をしたとえ。浪江様、笑わしちゃあいけねぇ。嘘をあんた言ってはいけねぇ。あの奥様があんたに食い付くなんて、そんな事はしねぇ。
 
そりゃあワシが九年も勤めたから、奥様の気質もよく知っていらぁ。おめぇ様のような唐瓜(カボチャ)に、何あの、おめぇ様のような色の黒い人は嫌いだョ。そんな事を言って。それはわしゃあ知っているからダメダメ」
 
 
 
「イヤ、それは手前が言う通り。奥様が手前に惚れたのではない」
 
 
「そうだようょ。おめぇ様のような青ッ髭は嫌いだ。何にコッチのことっだ」
 
 
「イヤ、先方では中々承知する景色は無かったが、手前どういう悪縁かぞっこん惚れたゆえ、命にかけて迫って、遂に口説き落としたのじゃ」
 
 
「エェ。それじゃあ、おめぇ様本当にくっついたのか、、、、、たまげたな。マァ、えれぇ事をした」
 
 
と、正助も驚きました。根が正直な正助でございますから膝を進めまして、
 
 
「まぁ、浪江様。おめぇ様、えれぇ事をやったな、間男をするなんて。ワシたまげたょ。だが、してしまったらもう取り返しが出来ねぇだ。ここが伯父甥の中だから言うが、悪いことは言わねぇ、決して後ねだりなどしねぇで、タッタ一度でよせョ」
 
 
 
「それは、手前が言わないでも、悪い事とは存じておるが、命にかけてもと思ったきせ殿、たった一度では心が済まぬ故、また参っては口説いて泊ってぃ迫ったので、一度が二度三度とあいなり、段々枕を交わすほど深くあいなるのがこの道で。
 
この節では奥様もこんなものでも可愛いと申されて、、、ついては南蔵院の天井の絵を描いてしまえば帰宅なさる先生、その先生が帰っては互いに楽しむ事も出来ないとおきせ殿も心配しておるのだが、正助殿、頼みというのはここだ」
 
 
 
「どこだナ」
 
 
「イヤサ、頼みというは他でもないが先生を今日連れだして、この浪江が人知れず殺すから、何とかその手引きをしてくれまいか」
 
 
と、聞きました正助、イヤァ驚くまいことか。
 
 
酒の酔いもさめまして、ブルブル震え出しました。
 
 
いよいよ正助を無理往生に語らいまして、重信を落合の蛍狩りに連れだすという。
 
 
ちょっと一息つきまして申し上げます。