読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

まどゐ。

~ おもゐを嗣ぎ、おもゐを纏ひ、おもゐを遣る ~ 

【改訳 怪談 乳房榎】 第五講 

 

【今日のこよみ】 旧暦2014年 2月 4日大安  四緑木星

         甲戌 日/戊辰 月/甲午 年 月相 2.8

         雨水 末候 草木萌動(そうもくめばえいずる)    

 

【今日の気象】 天気 晴れ 気温 0.9℃ 湿度 30% (大阪 6:00時点) 

 

 

 浪江はわざと落ち着きまして。


 
 
「これ、静かにしなさい。なるほど、藪から棒にかような事をしましては定めし驚きでござろうが、ここのところをよくお聞き分け下さい。実は、先ほどの持病の癪だと申したのはみな仮病で、元より道ならぬ不義とは万々承知の上のこと。こうまで男子が思い詰めた事。コレおきせ殿どうか叶えて。これ、ウンとおっしゃってもよいではござらぬか」
 
 
「おだんまなさい。貴方も元は谷出羽守様のご家来、侍の禄を食(は)んだ身の上ではございませんか。ことに夫重信は御昨今でもあなたの為には仮にも師匠」
 
 
「それは知れている」
 
 
 
「その妻に恋慕されるとは。マァ、あなたは見下げ果てた人だ。そんなお方を弟子にしたのは夫の誤り。浪江様は親切なお方と心を許しました私の見違え。
 
モゥモウあなたの顔を見るのも嫌でございます。サァすぐにお帰んなさい。どうか帰って下さい。コレ花や」
 
 
 
「また声をお立てなさる。静かになさい」
 
 
「イエ静かには致してられません。。。。。」
 
 
「静かに出来んなら致し方もござらんが、それは師匠の奥様に不義をしては済まん事も存じておるが、ソレそこがこの身の因果で恥を捨てて願うのだから」
 
 
「イエ。嫌でございます。花や」
 
 
「また大きな声をなさる」
 
 
「イエ。大きな声を出さずにはおられません」
 
 
「さよう。なら、これほどまでに事を分けて申しましても聞き入れられんか」
 
 
「聞かれますか。あなたよく物を積って御論じませ。モゥ私は」
 
 
と、立とうと致しますから、浪江はその袂をしっかりと捉えまして、
 
 
「それでは何でもお嫌だとおっしゃるか」
 
 
「知れた事でございます」
 
 
と、袂を振り払います。
 
 
「それならよろしゅうござる。叶わなければ手前も考えがござる」
 
 
と、脅して思いを遂げようと思いますから、持って参った脇差をひねくります。
 
 
「あなた、脇差を持って私を切る気でございますか」
 
 
「エエナニ、それは知れたこと。嫌だと言って恥をかかせられては、このまま内捨(うっちゃ)ってはおかん。お前を刺し殺してでも、この場を去らず。切腹致して相果てる。それでもウンとおっしゃらぬかぁ」
 
 
と、わざと鯉口をくつろげて膝を進めて申します。
 
 
と、こちらも体を突き付けまして、
 
 
「サァ、お切りなさい。例え我身があなたのお手にかかり、殺されましても操は破られません」
 
 
「それではよいか。刺すと命がござらぬぞ、ヨイカ」
 
 
「サァお切んなさい」
 
 
「よろしゅうござるか。只今真っ二つに」
 
 
「サァ、早く殺して下さい」
 
 
「よろしぃか」
 
 
と、刀を抜き掛けましてもわるびれませんから困った。。。。。
 
 
 
「だがな、私あなたを殺すのはどうも惜しいョ、どうも可愛いから、殺すのは止めに致すが、コレサマァよくお聞きなさい。
 
そんなつまらぬ事を致すよりかナント、、、、、それよりは一度お叶へ下さい。師匠は留守なり。例えナンしたとてあなたの口から何かおっしゃる訳は無し。また手前とても師の妻をナンしたなど仮にも言う気遣いはござらん、、、、、、黙っておれば分からん。
 
エエィ、、、、それともどうあってもお叶え下さらなければよろしい。切腹切腹を致し相果てますから、座敷をお貸し下さい。切腹致す」
 
 
 
「はぃどうも、勝手になさい。切腹でもなんでもなさいまし。だが、ここで切られては迷惑しますから押上の土手へお出でなすってお死になさい」
 
 
「それじゃあ、あなたは身共に切られて死んでも操は破れないとおっしゃるな」
 
 
「あなた、それは知れた事でございます」
 
 
「そういうことならもうよろしい。そう強情をおっしゃるならこう致す」
 
 
と、傍でスヤスヤ寝ております眞與太郎の胸の辺りへ手を付けまして、スラリと抜いた刀を差しつけましたから、おきせは驚きまして、
 
 
「あああ、お待ちなさい。あなた、何でこの子を。どうなさるので」
 
 
「どういたすものか。あなたは殺さぬが、この可愛い子を刺し殺して、後で切腹致す所存でござるが、これも手前相果てた後、頼みを叶えぬばかりにたった一人の可愛い子を殺さしたと、後で思い出すようにこの子を殺すのだ」
 
 
と、言いながらピカピカ光る白刃を胸の所へ刺しつけますから、
 
 
「まぁお待ちなさい」
 
 
「しからばお叶え下さるか」
 
 
「まぁ、あなた。何の罪もない子を」
 
 
「かわいそうだとお思し召すなら言うことをお聞き下さるか」
 
 
何と大胆にも浪江は今、可愛らしい正月生れの眞與太郎へ刃を差しつけて、
 
 
「ササァ、願いを叶へなければこの子を刺し殺して、後にて切腹して果てる」
 
 
と言われた時は、さすがのおきせも当惑するばかりでございました。
 
 
皆さんにお尋ね致しますが、かわいい我が子を刺し殺そうとされました気持ちはどんなんでございましょうか。女というものは、男と違いまして気の優しいもので。こういう時はには言うことを聞きますか、それとも聞きませんものでしょうか。
 
 
いよいよというおきせの返事は次回申し上げます。